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福岡地方裁判所小倉支部 昭和52年(ワ)566号 判決

原告 西日本海産物市場株式会社

右代表者代表取締役 土居忠志

右訴訟代理人弁護士 三浦啓作

右同 奥田邦夫

被告 合名会社 樫原商事

右代表者代表社員 樫原茂男

被告 樫原正美

右被告両名訴訟代理人弁護士 衛藤善人

右同 野口敏夫

右同 由井照二

主文

一  被告らは各自、原告に対し金一三三八万九七一四円及びこれに対する昭和五〇年二月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用のうち金二五〇〇円は原告の負担とし、その余は被告らの連帯負担とする。

三  本判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  主文第一項同旨。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  1につき仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

原告は海産物の卸売等を業とする株式会社(以下「原告会社」という)であり、被告合名会社樫原商事(以下「被告会社」という)は海産物及び鯨類の販売を業とするものであり、被告樫原正美(以下「被告正美」という)は、被告会社の業務執行社員であり、代表社員樫原茂男の子であって同代表社員に代わり実質上被告会社を経営していたものである。

2  本件不法行為

(一) 原告会社は被告会社に対し昭和四五年秋ころより久留米営業所扱いで海産物の卸売を行なってきた。

ところが昭和四八年末ころ被告正美は、当時原告会社従業員で被告会社担当のセールスマンであった訴外大熊兼行(以下「大熊」という)に対し、原告会社の取引商品は利幅が薄く、大熊には商品を顧客に対しサービス品として無償で提供する権限が無いことを知りながら、原告会社からの仕入商品の総額の三〇パーセント相当分の商品をサービス品として無償で提供しなければ原告会社からの商品の仕入を中止する旨示唆してサービス品の無償提供を強要し、大熊をしてやむなくこの要求に応ぜしめた。

(二) そして昭和四九年三月ころよりは、被告正美は大熊がサービス品の無償提供により原告会社に損害を及ぼし、その穴埋めに腐心している窮状に乗じ、原告会社の商品は利幅が薄く、大熊には商品値引の権限がないことを知りながら、サービス品の無償提供を中止する代わりに原告会社からの全仕入商品について一割二分ないし四割二分の値引をするよう強要し、同人をして原告会社に無断で右割合による値引をやむなくせしめた。

(三) また被告正美は昭和四九年七月末ころより、大熊に対し現状のままでは原告会社に露顕するので架空の熊本海産なる名義で被告会社に商品を納入するよう指示し、大熊をして右指示に従わせた。

(四) かくして被告正美は、昭和四九年八月一日から昭和五〇年二月四日までの間、別紙計算書「商品名」欄記載の各商品を本来ならば原告会社の正規の卸売価格である同計算書「原告会社の売上」欄記載の金額で購入すべきところ、前記(二)、(三)記載の方法により大熊を強要して、同計算書「被告会社の仕入」欄記載の金額に値引させ、これにより原告会社に対し後記4(一)記載の損害を与えた。

3  被告らの責任

(一) 被告正美の責任

被告正美は、前記のとおり大熊が商品値引の権限を有しないことを熟知しながら同人の窮状に乗じて不当な値引をさせたものであるから、原告会社に対し民法七〇九条により損害賠償義務を負う。

(二) 被告会社の責任

被告正美は被告会社の代表権を有しない社員であり、本件不法行為は被告正美が被告会社の業務執行中に行なったものであるから、被告会社は民法七一五号により原告会社に対し損害賠償義務を負う。

4  損害

(一) 被告会社が原告会社より仕入れた別紙計算書「商品名」欄記載の各商品につき、同計算書「原告会社の売上」欄中の売上金額を総計すると金七二三五万六一八八円となる。これに対し同計算書「被告会社の仕入」欄中の仕入金額は熊本海産名義での仕入分(同計算書一枚目ないし二八枚目)の総計が金五四三一万六五七四円であり、西日本海産物市場名義での仕入分(同計算書二九枚目)の総計が金三九万九九〇〇円であり、合計金五四七一万六四七四円となる。

よってその差額金一七六三万九七一四円が本件不法行為により原告会社が蒙った損害である。

(二) 他方原告会社は、本件につき共同不法行為者として損害賠償責任を負う大熊から、現在までに合計金四二五万円の賠償金の支払を受けている。

5  結論

よって原告会社は被告らに対し、連帯して損害賠償金一三三八万九七一四円及びこれに対する本件不法行為の日の後である昭和五〇年二月五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2(一)  同2(一)の事実中、原告会社が被告会社に対し昭和四五年秋ころより久留米営業所扱いで海産物を販売して来たこと、及び昭和四八年末当時大熊が原告会社の従業員で被告会社担当セールスマンであったことは認めその余は否認する。

(二) 同2(二)、(三)の事実は否認する。

大熊のようなセールスマンが商品の値引をする権限を有しなかったとしても、それは原告会社の内部的な制約に過ぎず、セールスマンは対外的には顧客と交渉し、値引を含め商談を成立させる一切の権限を有するものであり、かつ本件において被告正美は大熊の権限に関する原告会社の内部的制約を全く知らなかった。

また、被告会社が原告会社より仕入れていた塩乾物は値動きが激しく、特に領海二〇〇海里問題の影響により右傾向がさらに強まり相場が把握しにくいものであったのであり、被告正美において値引がなされたことを認識するためには原告会社の販売予定価格を知ることが不可欠であるが、被告正美は大熊より右価格を全く知らされていなかったのであって、値引の事実を知る由もなかった。むしろ本件において仕入価格は正当な交渉の結果定められたものである。

なお熊本海産なる名義の使用は大熊が勝手に行なったことであり、被告正美が指示したものではない。

(三) 同2(四)の事実中、原告会社の正規の卸売価格等は不知、その余は否認する。

3  同3(一)、(二)の事実は争う。

4(一)  同4(一)の事実中、原告会社の売上金額の総計等は不知、その余は否認する。

なお、原告主張の損害額には販売益も含まれており不当である。

(二) 同4(二)の事実は不知。

三  抗弁

仮に本件において被告らに損害賠償責任があるとしても、原告会社も大熊に対する監督につき過失が存するので、損害額の算定上斟酌さるべきである。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は否認する。

第三証拠関係《省略》

理由

一  当事者

請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  本件事案の概要

原告会社が被告会社に対し昭和四五年秋ころより久留米営業所扱いで海産物を継続して販売して来たこと、及び昭和四八年末当時大熊が原告会社の従業員で被告会社を担当するセールスマンであったことは当事者間に争いがない。

《証拠省略》を総合すると、以下の事実が認められる。

1  大熊は昭和四七年一二月ころ原告会社に雇傭され、その久留米営業所に所属するセールスマンとして柳川、大牟田等の地区所在の海産物の二次問屋及びスーパー、デパート等大型小売店などの得意先に対する海産物(主として塩乾物)の卸売を担当するようになり、被告会社も右得意先の一つに含まれていた。大熊が行なっていた卸売の方法は、商品を自動車に積んで各得意先を回り、これを販売するものであった。

一方、被告会社は海産物の二次問屋として昭和二五年ころ設立され、昭和三〇年ころからは被告正美が代表社員樫原茂男の包括的な授権の下に実質的な経営者としてその営業を統轄していたものであり、商品の仕入についても、自らあるいはその妻樫原和代を通じて仕入先との取引接渉に当たっていたものである。また大熊が被告会社の担当となった当時、被告会社は原告会社のほかいくつかの卸売業者から海産物を仕入れていた。

2  昭和四九年四月ころ、被告正美の妻において大熊に対し原告会社の商品の卸売価格が他と比べて高すぎるとの不満を述べて値引を行なうよう要求し、大熊がこれに応じなかったところ、値引の代わりにサービス品を無償で提供するよう求め、もしこれに応じれば今後海産物の仕入先を原告会社のみに絞ってもよい旨申し向けた。

ところで、原告会社はその販売する海産物につき通常その原価の八パーセントを収益率として卸売価格を指定しており、セールスマンはうち三パーセントの範囲内でその裁量により値引して販売することが許されていたが、その範囲を超えて値引する場合には上司の許可を受けることが必要とされ、またサービス品を無償で提供するといった販売方法は従前殆んどとられたことはなく、もとよりセールスマン独自の判断で行なうことは許されていなかった。しかるに大熊は、もし前記要求に応じなければ被告会社が爾後原告会社との取引の継続を中止するのではないかと懸念し、原告会社に無断で右要求を容れることとし、以後被告会社に対し卸売の都度、当該卸売代金の約三〇パーセントに相当する価額の商品をサービス品として無償で提供するようになった。そして大熊は、原告会社に対しては右サービス品を自己が担当する他の得意先(河村商店)に販売したかの如く装った虚偽の売上伝票を作成して提出し、右サービス品が売先不明品となるのを防いでいた。

3  しかしながら、サービス品につき右の如き売上伝票を原告会社に提出したことにより、大熊は原告会社との関係では、サービス品の代金をも集金して納入しなければならなくなり、当初は右代金を自分で負担していたが、被告会社との取引量が増大するに伴い提供するサービス品の価額も大きくなり、その穴埋めに窮する状況に追込まれた。

そこで大熊は同年六月ころになり、被告正美ないしその妻に対し右状況を打明け、サービス品の提供を今後共続けることは困難である旨申入れたところ、被告正美らは大熊にその権限がないことを知りながら再び大幅な値引販売を要求した。そして大熊は前記の如くサービス品の提供による欠損金の穴埋めを迫られていたため、敢えて右要求に応じ原告会社に無断で値引を行なってでも被告会社との取引を継続し、その売上金をもって右穴埋めに充てようと考えるに至った。

以後大熊は被告会社に対し、原告会社より指示された卸売価格の二〇ないし四〇パーセントもの大幅な値引販売を行なうようになり、また当初は正規の卸売価格での販売も併せて行なっていたが、次第に殆んどの商品を値引販売するようになって行った。

4  ところで、通常原告会社のセールスマンが卸売を行なう場合には、商品の受渡しと同時に原告会社の用紙を用いて作成した納品計算書を販売先に交付し、一方原告会社へはこれを見合う売上伝票を提出していた。しかるに大熊は被告会社に対する右値引販売が原告会社に発覚しないよう、右値引販売した商品についてはこれを正規の卸売価格で被告会社あるいは河村商店などに販売したかの如く装った虚偽の売上伝票を作成して原告会社に提出し、一方被告会社へは、品名、数量、金額を記載したメモ書のみを交付していた。

5  さらに昭和四九年七月末ころになり、被告正美は、大熊からの値引商品の仕入につきメモ書のみの交付を受けていたのでは仕入先不明品が生ずることになるため、かくては原告会社に不当な値引販売の事実が発覚するのではないかと懸念し架空の熊本海産なる名義を仕入先として用いることを考えるに至り、そのころ被告正美の妻を通じて被告会社に来合わせた大熊に対し、今後値引商品につき熊本海産名義で納品書を作成して交付するよう指示した。そして大熊において即座にこれを了解し、直ちに被告会社の近くの文房具店から市販の納品書用紙を買い求めて来て、同日以降熊本海産名義の納品書を作成交付するようになった。また被告正美は熊本海産名義による仕入に関する帳簿を被告会社に備付け、右納品書に基づき記載していた。

なおまた、被告正美らは大熊に商品の注文のための電話連絡をする場合にも原告会社の営業所を避け、大熊の自宅へ架電するのがもっぱらであった。

6  以上の如き取引を続けるうち、被告会社が仕入れる原告会社の商品の数量、価額は飛躍的に増大し、前年度と比較してその数倍に達するまでになり、同時に、被告会社の仕入先はほぼ原告会社のみに絞られるに至った。

その結果、昭和四九年八月一日から昭和五〇年二月四日までの間、被告会社は別紙計算書「商品名」欄記載の原告会社の各商品を同計算書「被告会社の仕入」欄記載の各価格で大熊から値引販売を受けた(但し、同計算書二九枚目の西日本海産物市場分のみ正規の納品計算書が作成され、その余は全て熊本海産名義の納品書によるものであるが、いずれも不当に値引販売された商品である)。

他方大熊は右各商品につき、原告会社より指示された正規の卸売価格である同計算書「原告会社の売上」欄記載の価格を記入した売上伝票を原告会社に提出していた。

7  しかして大熊は、右の如く原告会社に対し正規の卸売価格を記入した売上伝票を提出していたことにより、原告会社との関係では値引販売した商品であっても正規の卸売価格による代金を入金しなければならない立場にあったが、原告会社では、得意先に対する卸売代金を毎月末締めで一ヵ月分を集計し、翌月五日に請求書を送付したうえ、当月二〇日ころに担当のセールスマンが集金して原告会社に入金することになっていた。

本件において大熊は、被告会社に値引販売した商品の代金を従前通りの時期に集金していたのでは、もとより原告会社に入金しなければならない金額に満たないため、未だ支払期限が到来しない分の卸売代金をも、原告会社に入金すべき金額に達するまで先取りして集金し、これによって値引販売による欠損金を一時的に穴埋めすることを繰り返すようになったが、被告正美は大熊からの卸売代金の先払の依頼にも抵抗なく応じていた。

ところで原告会社は大熊が前記の如く虚偽の売上伝票を提出し、また値引販売による欠損金を穴埋めしていたため、値引販売の事実に全く気付かないでいたが、昭和五〇年二月五日大熊が被告会社から集金した金員を拐帯横領するという事件が発生したため、これを契機に初めて原告会社において右値引販売の事実を知るに至ったものである。

8  なお被告正美及びその妻は大熊に対し、値引販売を受けた謝礼の趣旨で、昭和四九年一二月末ころ現金四〇万円を供与し、また大牟田市内の料亭で家族ぐるみで接待するなどし、あるいは折に触れウィスキーや商品券を贈るなどした。なお右接待に際し被告正美の妻は大熊に対し値引販売を受けたおかげで一〇〇〇万円位儲けた旨の言辞を洩らしたこともある。

他方、原告会社においてはセールスマンの給料につき固定給制度をとっており、セールスマンが自己の営業成績を上げても賞与の査定に際し若干評価される以外には待遇面での実益は乏しかったもので、本件不当値引による販売数量の増加についても大熊には待遇面での格別の実益はなかったものである。

以上の事実が認められるところ、《証拠省略》には、被告正美は大熊が原告会社に無断で不当な値引販売を行なっていることを全く知らず、あくまでも正当な取引であると信じて大熊より商品の仕入れを行なっていたものであり、熊本海産なる名義も大熊が被告正美らに理由を明らかにしないまま勝手に用いていたものであるかの如く供述する部分が存するが、しかしながら前記認定のとおり大熊にとってさしたる実益はなくもっぱら被告らを利する結果となる本件の値引販売ないしその発端となったサービス品の提供を被告正美らの要求もなく自ら進んで行なうべき理由を見出し難いこと、大熊が不当な値引販売を開始して以後被告会社の原告会社からの仕入量が異常に増大しており、このような結果が正常な商取引によるものとみることはいささか困難であること、また被告正美は大熊が値引販売による欠損金の穴埋めのために請求した期限未到来の卸売代金の支払にも応じていたこと、さらには前記の如く熊本海産なる架空名義を仕入先とし市販の納品書用紙を使用するという従前と異なる不正規な取引方法をとりながら被告正美がその理由も聞かずに応じていたというのは極めて不自然であること、《証拠省略》によれば被告正美は本件に関し本訴提起前に捜査官から背任罪の被疑者として取調べを受けた際、右供述部分に反し前記認定事実に沿う供述をしていることが認められること及び前掲その余の各証拠に照らして、右供述部分はにわかに措信し難く、他に前記認定を覆えすに足る証拠はない。

三  被告らの責任

1  被告正美の責任

前記認定事実に徴すると、被告正美は、原告会社の従業員で被告会社担当のセールスマンであった大熊が、昭和四九年四月ころより被告正美らの要求に応じて原告会社に無断でサービス品の提供をなしたため、その代金の穴埋めに窮する状況になった際、その事情を知らされたにも拘らず、今度は大熊にその権限がないことを知りながら、商品の大幅な不当値引販売を行なうように仕向け、さらには同年七月末ころ被告正美においてその妻を通じ大熊に対し熊本海産なる架空名義を仕入先とし市販の用紙を使用して右架空名義の納品書を作成させるなどして不正の発覚を防止する工作をしたうえ、同年八月一日から昭和五〇年二月四日までの間大熊と意思相通じ同人をして前記認定の如く不当な値引販売を行なわしめたものであると認められるから、大熊がその任務に背き違法に原告会社の利益を侵害したものとして責任を免れないことはもちろん、被告正美も大熊の右背任行為に故意に共同加功したものといわざるを得ず、よって原告会社に対し民法七〇九号により損害賠償責任を負わねばならない。

2  被告会社の責任

前記認定事実に徴すると、被告正美は被告会社の被用者としての地位を兼ねた業務執行社員と認めるのが相当であり、かつ本件不法行為は被告会社の事業の執行につきなされたものであることが明らかであるから、被告会社は民法七一五号により原告会社に対し被告正美と連帯して損害賠償責任を負わねばならない。

四  損害

1  前記二6記載のとおり、被告会社は昭和四九年八月一日から昭和五〇年二月四日までの間別紙計算書「商品名」欄記載の原告会社の各商品を、大熊による不当な値引販売により同計算書「被告会社の仕入」欄記載の各価格で仕入れたこと(仕入価額は総計金五四七一万六四七四円)、一方右各商品につき原告会社の指示による正規の卸売価格は同計算書「原告会社の売上」欄記載のとおりであること(売上価額は総計金七二三五万六一八八円)が認められるところ、反証のない本件においては、原告会社は本件不法行為がなければ右各商品を正規の卸売価格で販売し右売上価額相当の収入を上げ得たものと認めるのが相当であるので、右売上価額と仕入価額の差額金一七六三万九七一四円が本件不法行為により原告会社が蒙った損害であると認められる。

2  なお被告らは原告会社においてその従業員である大熊に対する監督上の過失がある旨主張するが、被告正美の本件不法行為は大熊の背任行為に故意に共同加功したものであり、また仮に原告会社が大熊に対する監督に適正を欠き、ために大熊の背任行為を防ぎ得なかったとしても、少なくとも原告会社が右背任行為を積極的に誘発ないし助長したものとはみられないのであるから、公平ないし信義則の見地からして原告会社の右事情は損害額の算定上斟酌すべき過失には該らないものと認めるのが相当である。

3  大熊が原告会社の本件損害につき現在までに合計金四二五万円の被害弁償をなしたことは原告の自認するところであるから、原告会社が被告らに対し請求し得る損害額は金一三三八万九七一四円となる。

五  総括

よって原告の本訴請求は全て理由があるのでこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九〇条、九三条一項但書(原告が本訴追行過程でなした請求の減縮のうち損害額の減額訂正を原因とする部分に係る貼用印紙代の過大分金二五〇〇円を原告の負担とし、その余の訴訟費用は被告らの連帯負担とする)、仮執行宣言につき同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 谷水央 裁判官 田中澄夫 裁判官斎藤精一は転補のため署名押印できない。裁判長裁判官 谷水央)

〈以下省略〉

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